大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)3942号 判決 1985年7月05日

甲・乙事件原告、丙事件被告(以下「原告」という。)

オリエント・リース株式会社

右代表者

宮内義彦

右訴訟代理人

松田安正

華学昭博

甲・乙事件被告、丙事件原告(以下「被告」という。)

光栄機設工業株式会社

右代表者

安尾鵄郎

甲事件被告(以下「被告」という。)

安尾鵄郎

右被告両名訴訟代理人

豊蔵亮

植田勝博

益満清輝

丙事件被告(以下「被告」という。)

株式会社大塚商会

右代表者

大塚実

右訴訟代理人

吉村洋

村林隆一

今中利昭

井原紀昭

千田適

松本勉

田村博志

釜田佳孝

浦田和栄

主文

一  被告光栄機設工業株式会社及び同安尾鵄郎は、原告に対し、各自四一四万〇九五九円及びこれに対する昭和五八年四月一二日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

二  原告と被告光栄機設工業株式会社間の大阪地方裁判所昭和五八年(手ワ)第四五四号約束手形金請求事件について同裁判所が昭和五八年六月九日に言い渡した手形判決を認可する。

三  被告光栄機設工業株式会社の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告光栄機設工業株式会社との間においては、すべて被告光栄機設工業株式会社の負担とし、原告と被告安尾鵄郎との間においては、すべて被告安尾鵄郎の負担とし、被告光栄機設工業株式会社と被告株式会社大塚商会との間においては、すべて被告光栄機設工業株式会社の負担とする。

五  この判決は、第一、四項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  甲事件

1  原告の請求の趣旨

(一) 主文第一項同旨

(二) 訴訟費用は被告光栄機設工業株式会社及び同安尾鵄郎の負担とする。

(三) 仮執行の宣言

2  請求の趣旨に対する被告光栄機設工業株式会社(以下「被告光栄機設」という。)及び同安尾鵄郎(以下「被告安尾」という。)の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  乙事件

1  原告の請求の趣旨

(一) 被告光栄機設は、原告に対し、一五九万三九〇〇円及びこれに対する昭和五八年四月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告光栄機設の負担とする。

(三) 仮執行の宣言

2  請求の趣旨に対する被告光栄機設の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

三  丙事件

1  被告光栄機設の請求の趣旨

(一) 原告及び被告株式会社大塚商会(以下「被告大塚商会」という。)は、被告光栄機設に対し、各自五五三万五四二〇円及びこれに対する昭和五七年五月三一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告及び被告大塚商会の負担とする。

(三) 仮執行の宣言

2  請求の趣旨に対する原告の答弁

(一) 被告光栄機設の原告に対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告光栄機設の負担とする。

3  請求の趣旨に対する被告大塚商会の答弁

(一) 被告光栄機設の被告大塚商会に対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告光栄機設の負担とする。

第二  当事者の主張

一  甲事件

1  原告の請求原因

(一) 原告は、リースを業とする株式会社であり、被告光栄機設はクレーン及びホイスト設備の製造販売を業とする株式会社であり、被告大塚商会は各種事務機器等の販売を業とする株式会社である。

(二) 原告は、被告光栄機設との間で、昭和五五年八月七日、日本電気株式会社製のNEACシステム五〇―Ⅱ型コンピューター一式(以下「本件コンピューター」という。)につき、原告をリース貸主、被告光栄機設をリース借主とする以下のとおりの内容のファイナンス・リース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(1) リース期間 昭和五五年一二月一日から六〇か月

(2) リース料及びその支払方法 昭和五五年一二月から同六〇年一一月まで毎月一日に月額一四万四九〇〇円を支払う。

(3) 前払リース料と充当 被告光栄機設は、原告に対し、前払リース料として、四三万四七〇〇円を支払い、原告は、最終三回分のリース料の支払期日が到来したときに、そのリース料の支払に充当する。

(4) 遅延損害金 日歩四銭

(5) 被告光栄機設がリース料の支払を一回でも遅滞したときには、原告はリース料の即時支払を請求できる。

(三) 被告安尾は、昭和五五年八月七日、原告に対し、本件リース契約に基づいて被告光栄機設が原告に対して負担する一切の債務を連帯保証する旨約した。

(四) 被告光栄機設は、昭和五七年六月一日以降リース料の支払をしない。

(五) よつて、原告は、本件リース契約及び連帯保証契約に基づき、被告光栄機設及び同安尾に対し、各自以下のとおりの金員合計五一五万〇〇一五円の内、乙事件の手形金額を控除した四一四万〇九五九円及びこれに対する昭和五八年四月一二日から支払済みまで日歩四銭の割合による約定遅延損害金の支払を求める。

(1) 昭和五七年六月分のリース料 一四万四九〇〇円

(2) 右リース料に対する昭和五七年六月二日から同年七月一日までの日歩四銭の割合による約定遅延損害金 一七三九円

(3) 昭和五七年七月分から同六〇年八月分までのリース料 合計五五〇万六二〇〇円(但し、昭和六〇年九月分から同年一一月分までのリース料は前払リース料を充当済み)から、昭和五七年七月一日以降各支払期日までの間の年六パーセントの割合による未経過利息五〇万二八二四円を控除した残額五〇〇万三三七六円

2  請求原因に対する被告光栄機設及び同安尾の認否

請求原因事実はすべて認める。

3  被告光栄機設及び同安尾の抗弁

(一) 債務不履行による解除

(1) 本件リース契約のリース物件には、本件コンピューターのほか、別紙(1)記載の内容の被告光栄機設の売上、仕入、在庫、経費並びに工事、ユーザー、営業担当者、日付毎の原価計算のプログラムシステム(以下「本件プログラム」という。)をも含むものである。

(2) ところが、本件プログラムには、昭和五七年一月になつても以下のような瑕疵があり、未完成である。

(イ) 在庫プログラムから原価計算プログラムに自動移行せず、また自動移行してはならないものが自動移行する。

すなわち、在庫表における「フリ」欄は有償在庫の表示であり、その金額は原価計算プログラムに自動移行されるべきであり、また在庫表における「ジュン」欄は、無償在庫(支給部品)の表示であり、その金額は、原価計算プログラムに移行してはならないにもかかわらず、フリ欄の金額でも原価計算プログラムに移行しないものがあるし、ジュン欄の金額でも原価計算プログラムに移行するものがある。

(ロ) 原価計算の担当別プログラムは、担当者毎にコード番号が付され、コード番号順に表示されなければならないのにその処理がなされていない。

(ハ) 原価計算の担当別プログラムは、コード番号別に毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示がなされなければならないのにその処理がなされていない。

(ニ) 原価計算の日付別プログラムはユーザー別、日付別に表示され、毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示がなされなければならないのにその処理がなされていない。

(ホ) 原価計算のユーザー(得意先)別プログラムもユーザー別、日付別に表示され、毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示がなされなければならないのにその処理がなされていない。

(3) そこで、被告光栄機設は、昭和五七年五月三〇日到達の内容証明郵便により、原告に対し、債務不履行を理由に本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

(二) 錯誤による無効

仮に、右事実が認められないとしても、被告光栄機設は、原告がその履行補助者たる被告大塚商会により、本件コンピューターにつき昭和五六年七月末日までに本件プログラムを完成してくれるものと信じて、本件リース契約を締結したものであるが、結局、昭和五七年一月になつても本件プログラムは完成されなかつたのであるから、本件リース契約は、被告光栄機設の意思表示の重要な部分に錯誤があり無効である。

4  抗弁に対する原告の認否及び主張

(一) 抗弁第(一)項の事実のうち、(1)(2)の事実は否認し、(3)の事実は認める。

同第(二)項の事実は否認する。

(二) 錯誤による無効について

仮に、被告光栄機設に錯誤が存するとしても、動機の錯誤にすぎず、右動機は原告に対し表示されていないのであるから、本件リース契約を無効とするものではない。

5  原告の再抗弁

(一) 免責特約

本件リース契約には、被告光栄機設が原告に対し、本件コンピューターに規格、仕様、性能、機能等に不適合、不完全その他の瑕疵がある旨の通知を検査期限内にすることなく、所定の借受証を原告に交付したときは、本件コンピューターが瑕疵なく完全な状態で原告から被告光栄機設に引渡されたものとみなされ、以後、原告が右コンピューターのすべての瑕疵について責任を負わない旨の約定がある。

(二) 信義則違反ないし権利濫用

被告光栄機設は、その後、本件コンピューターの引渡を受けたうえ、昭和五五年一二月一日に原告に借受証を交付して本件リース契約に基づくリース料の支払を約した。

したがつて、原告は、被告大塚商会から被告光栄機設に本件コンピューターの引渡がなされたものと信じ、売主である被告大塚商会に本件コンピューターの購入代金を支払つたものである。したがつて、被告光栄機設が自ら提出した借受証の記載に反し引渡がない旨を主張して、原告に対しリース料の支払を拒むことは、信義則違反ないし権利濫用として許されない。

6  再抗弁に対する被告光栄機設及び同安尾の認否

否認する。

7  被告光栄機設及び同安尾の再々抗弁

(一) 原告主張の免責特約は、本件リース契約に次のような特段の事情があるから無効である。

本件リース契約には、原告が被告光栄機設に対し、被告大塚商会を原告の履行補助者として本件コンピューターにつき、昭和五六年七月末日までに本件プログラムを完成することを約した。

仮に、本件リース契約に右約定が含まれていると認められないとしても、本件コンピューターの売主である被告大塚商会は、被告光栄機設に対し、その加盟リース会社である原告を紹介し、原告とリース契約を締結するように求めた上、リース契約の内容を説明し、前払リース料も原告の代理人として受領したものであり、原告と被告大塚商会とは実質的に同一体である。

(二) 原告主張の免責特約は、次の理由で例文と解され、また信義則に反するので無効である。

(1) リース契約は、リース借主に金融の便宜を供与するという金融的側面を有しているものの、リース物件の所有権はリース会社に属し、リース借主はリース物件に対し、善良な管理者の注意義務を負担し、リース物件を改造、変更、第三者への賃貸、譲渡することも許されず、契約終了時には、リース物件をリース会社に返還する義務を負うなど賃貸借的側面が強く、契約書の形式のみならずリース借主の契約意思もリース物件を賃借するというものにはほかならないのであるから、その実質は賃貸借契約であると考えるべきである。

したがつて、リース会社は、リース借主に対し、リース物件を瑕疵などにより、利用させることができない場合には、有償契約たる賃貸借契約の本質から当然、その対価としてのリース料を徴収できないというべきであるのに、免責特約の努力を認めるのは、リース会社の都合にあわせて、金融的側面のみを強調したものであり不当である。

(2) リース会社は、リース契約の締結に際し、リース借主に対し、免責条項等の説明を一切なさず、リース会社の用意したリース契約書を一方的に交付してそこにリース借主の署名、押印を求める方式によりリース契約を締結させており。また、借受証もリース物件の点検検収とは全く無関係に形式的に交付されているにすぎない。

(3) リース契約においては、リース物件に瑕疵が存在する場合にリース会社がリース物件の販売会社に対して有する損害賠償請求権をリース借主に譲渡する旨の合意がなされているが、リース会社がリース物件の瑕疵如何にかかわらず、リース料を回収しうるとするならば、そもそもリース会社には損害は発生しないことになり、この方法によつては損害は発生しないことになり、この方法によつては、リース借主は充分に保護されない。

また、仮に、右のような場合に何らかの法律構成によりリース借主がリース物件の販売会社に対し、直接損害賠償を請求しうるとしても、リース借主は、リース物件を全く使用収益することができない状態で、リース料の支払を強制されながら、販売会社に対し、損害賠償を請求せざるを得ないことになる。ところが、リース取引の実際において、リース物件の販売会社がその加盟リース会社をリース借主に紹介する形態がとられていることから考えても、リース会社と販売会社は、互いの利益伸長のため提携しているというべきであり、このリース会社と販売会社の一体関係からすれば、右の如き不利益をリース借主に一方的におしつけるのはまさに公平に反するといわざるをえない。

(4) リース契約においても、小型コンピューターやワードプロセッサーなどに関しては、リース借主は、個人経営者等零細な企業が多いのであるから、消費者保護の見地からその免責特約の効力を考えるべきである。

そして、立替払契約においては、判例上、消費者からクレジット会社に対し、販売会社に対する抗弁権を主張するのを容認する傾向があるし、諸外国の法制度や裁判傾向も同様であるから、リース契約においても同様に考えるべきである。

8  再々抗弁に対する原告の認否及び主張

(一) 再々抗弁事実は否認する。

(二) 原告主張の免責特約は、以下の理由から例文とはいえず、また信義則に反するものではない。

(1) リース契約は、事業者に当該リース物件の延払い等による購入と同一の経済的効果をもたらすリース会社の事業者に対する金融上の便宜供与の一形態であるところの無名契約であつて、賃貸借契約とは異なるものである。

(2) リース取引においては、販売会社、リース会社及びリース借主は三者独立かつ対立した関係にあり、リース物件の選択等は、販売会社とリース借主との間でなされ、リース会社は全く関与しないのであるから、リース会社にはリース物件の瑕疵について判断する能力はない。

(3) リース取引において、リース物件に瑕疵が存在する場合には、リース借主は商慣習、実質的当事者関係あるいは、第三者のためにする契約という法律構成により、直接販売会社に対し、損害賠償請求をすることが可能であり、リース借主の保護に欠けるところはない。

また、リース契約においては、リース借主のリース料支払義務は、リース会社に対し、借受証を交付したときに開始されるもので、リース借主がリース物件の検収中に瑕疵を発見したときは、その瑕疵が補修されるまで借受証の交付を延期したり、その旨を借受証に記載することにより、リース料支払義務の発生を防止し、或いは、リース料の軽減を図ることが可能であり、この点においてもリース借主の保護に欠けるところはない。

(4) リース取引では、事業者が自己の合理的経営判断に基づいて、売主を選択し、物件及びその仕様を決定し、さらに多様な支払方法の中からリースによる資金調達及び特定のリース会社を選択するのであるから、立替払契約などと異なり、リース契約において、消費者保護の観点をいれる余地はない。

割賦販売法等の消費者保護立法においても、購入者のために商行為となる場合の適用排除規定が設けられているし、諸外国の立法も消費者を保護するものであり、事業者間の取引を規律するものではない。

二  乙事件

1  原告の請求原因

(一) 被告光栄機設は、別紙手形目録記載の約束手形一一通(以下「本件各手形」という。)を振り出した。

(二) 原告は、本件各手形を所持している。

(三) 原告は、株式会社北陸銀行に対し、本件各手形を取立委任裏書し、同銀行は、右手形の各満期の日に本件各手形を支払場所に呈示した。

(四) よつて、原告は、被告光栄機設に対し、手形金合計一五九万三九〇〇円及びこれに対する各支払期日の後の日である昭和五八年四月一二日から支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

2  請求原因に対する被告光栄機設の認否

請求原因第(一)項の事実は認め、第(二)、第(三)項の事実は知らない、同第(四)項の主張は争う。

3  被告光栄機設の抗弁

(一) 被告光栄機設は、原告との間で、昭和五五年八月七日、本件リース契約を締結し、同契約に基づくリース料の支払のために本件各手形を振り出した。

(二) ところが、甲事件抗弁(一)記載のとおり、本件コンピューターのプログラムに瑕疵が存したので、被告光栄機設は、昭和五七年五月三〇日、原告に対し、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

(三) 仮に、本件プログラムに瑕疵が存しないとしても、甲事件抗弁(二)記載のとおり、本件リース契約は、被告光栄機設の意思表示の重要な部分に錯誤があり無効である。

4  抗弁に対する原告の認否及び主張

(一) 抗弁第(一)項の事実は認める。

同第(二)項の事実のうち、被告光栄機設が、昭和五七年五月三〇日、原告に対し、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした事実は認め、その余の事実は否認する。

同第(三)項の事実は否認する。

(二) 仮に、被告光栄機設に錯誤が存するとしても、動機の錯誤にすぎず、右動機は原告に対し、表示されていないのであるから、本件リース契約を無効とするものではない。

5  原告の再抗弁

甲事件の再抗弁記載のとおりである。

6  再抗弁に対する被告光栄機設の認否

否認する。

7  被告光栄機設の再々抗弁

甲事件の再々抗弁記載のとおりである。

8  再々抗弁に対する原告の認否及び主張

甲事件の再々抗弁に対する原告の認否及び主張記載のとおりである。

三  丙事件

1  被告光栄機設の請求原因

(一) 被告光栄機設は、クレーン及びホイスト設備の製造、販売等を業とする株式会社であり、原告はリースを業とする株式会社であり、また被告大塚商会は、各種事務機器等の販売を業とする株式会社である。

(二) 被告光栄機設は、原告との間で、昭和五五年八月七日、本件リース契約を締結した。

(三) 被告大塚商会は、原告に対する本件コンピューターの売主であり、原告と被告光栄機設との間で昭和五五年八月七日に本件リース契約を締結したことにより、右同日、被告光栄機設との間で、被告大塚商会が昭和五六年七月末日までに本件プログラムを完成することを内容とする請負類似の契約が成立した。

又は、被告大塚商会は、被告光栄機設との間において、昭和五五年八月七日、本件コンピューターとプログラムの性能を保証し、これが欠けるときは同被告の損害を賠償する旨の黙示の損害担保契約が成立した。

又は、原告と被告大塚商会との間に成立した昭和五四年八月七日の本件コンピューターの売買契約において、被告大塚商会は、本件コンピューターに関する瑕疵担保、期限内保証、保守サービス、その他売主の便益の供与、義務の履行に関して、借主に対し、直接その責任を負う旨を約している。そこで、本件コンピューターの借主である被告光栄機設は、右特約に関し、被告大塚商会に対し、受益の意思表示をした。

(四) ところが、甲事件の抗弁(一)(2)の記載のとおり、本件プログラムには瑕疵があり未完成である。

そこで、被告光栄機設は、昭和五七年五月三〇日到達の内容証明郵便により、原告に対し、債務不履行を理由に本件リース契約を、被告大塚商会に対し、同様の理由で前記請負類似の契約を解除する旨の意思表示をした。

(五) 被告光栄機設は、原告及び被告大塚商会の右債務不履行により、次のとおりの損害を被つた。

(1) リース料相当額 三〇四万二九〇〇円

被告光栄機設は、原告に対し、本件リース契約に基づき、次のとおりリース料を支払い、同額の損害を被つた。

(イ) 昭和五五年六月一二日 四三万円

(ロ) 同年七月一八日 四七〇〇円

(ハ) 同年一二月二日 一四万四九〇〇円

(ニ) 昭和五六年一月から同五七年五月まで毎月一日各一四万四九〇〇円

(2) 本件コンピューターの借入設置準備費 五三万六一〇〇円

被告光栄機設は、本件コンピューターの借入設置の準備のため、次のとおり費用を支払つたが、原告及び被告大塚商会の債務不履行により本件コンピューターを利用することができなかつたから、右費用相当額の損害を被つた。

(イ) 被告大塚商会からのフロッピー・ストップフォーム購入代金

昭和五五年一二月二九日 四万三〇〇〇円

同五六年五月三〇日 三万八〇〇〇円

(ロ) 被告大塚商会への保守料

昭和五六年一二月二八日 九万〇六〇〇円

(ハ) 柴田印刷株式会社への売掛台帳、買掛台帳各三〇〇〇枚の印刷代金

昭和五六年一月三一日 一一万四五〇〇円

(ニ) 柴田印刷株式会社への注文書入出庫控一〇〇冊、入庫出庫票三〇冊の印刷代金

昭和五六年九月一〇日 二五万円

(3) 人件費 一九五万六四二〇円

被告光栄機設は、本件コンピューターの採用を前提に、コンピューター稼動のための従業員を採用したが、原告及び被告大塚商会の債務不履行により本件コンピューターを採用することができなかつたため、右従業員を解雇し、解雇に至るまでの給与相当額の損害を被つた。

(イ) 関谷洋子への給与合計 九八万〇一四〇円

昭和五六年九月七日採用、同五七年五月二八日解雇

(ロ) 中川照代への給与合計 七四万一〇八〇円

昭和五六年九月七日採用、同五七年三月一〇日解雇

(ハ) 千竈史子への給与合計 二三万五二〇〇円

昭和五六年九月七日採用、同年一一月一四日解雇

(六) よつて、被告光栄機設は、原告に対しては本件リース契約の債務不履行に基づき、被告大塚商会に対しては、請負類似の契約の債務不履行、損害担保契約又は第三者のためにする契約に基づき、各自損害金五五三万五四二〇円及びこれに対する右解除の日の翌日である昭和五七年五月三一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する原告の認否

(一) 請求原因第(一)、(二)項の事実は認める。

同第(四)項の事実のうち、被告光栄機設が、昭和五七年五月三〇日、原告に対し、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした事実は認め、その余の事実は否認する。

同第(五)項の事実のうち、被告光栄機設が、原告に対し、被告光栄機設主張のとおりリース料を支払つた事実は認め、その余の事実は知らない。

同第(六)項の主張は争う。

3  請求原因に対する被告大塚商会の認否及び主張

(一) 請求原因第(一)項の事実は認める。

同第(三)項の事実は否認する。

同第(四)項の事実のうち、被告光栄機設が昭和五七年五月三〇日、被告大塚商会に対し、請負類似の契約を解除する旨の意思表示をした事実は認め、その余の事実は否認する。

同第(五)項(1)(イ)(ロ)及び同項(2)(イ)(ロ)の事実は認め、その余の事実は知らない。

同第(六)項の主張は争う。

(二) 被告光栄機設は、昭和五五年八月ころ、別紙(2)記載の中から、「入出庫データ」から「原価作成3」への移行部分を除いた売上、仕入、在庫のプログラムの作成を依頼し、被告大塚商会は同年一二月ころ、同プログラムを完成して引渡した。

すなわち、「入出庫データ」から「原価作成3」への移行部分が除かれていたのは、被告光栄機設の在庫には、日本ホイスト株式会社(以下「日本ホイスト」という。)からの預り在庫が存在するために在庫管理プログラムシステムのデータ全てを原価計算システムに移行させることはできないが、右日本ホイスト預り在庫は、被告光栄機設が各工事に振分け使用した残余を事実上被告光栄機設の在庫商品として他の工事に使用することが可能であるという理由によるのである。

(三) 被告光栄機設は、右プログラムが完了した後の昭和五五年一二月以降に、被告大塚商会に対し、右の被告光栄機設の在庫の特殊性を考慮した上で、在庫管理システムにインプットされたデータを原価計算システムのデータとして移行させ使用出来る原価計算プログラムの作成を依頼し、被告大塚商会は、別紙(2)のとおりのプログラムを完成し、昭和五六年二月に引渡した。

(四) 被告光栄機設主張のプログラムの瑕疵は何ら存しない。

(1) 被告光栄機設の主張する「自動移行」とは、二枚のフロッピーシートをフロッピーディスクにセットし、一方のフロッピーシートに入力されているプログラムを画面の指示に従い作動させることにより、もう一方のフロッピーシートにデータが移行するシステムのことである。

(2) 在庫プログラムから原価計算プログラムへの移行について

原価計算システムにおける「ジュン」は、被告光栄機設が特定の工事のために仕入れ入庫した在庫商品であり、「フリ」は、被告光栄機設が工事を特定せずに仕入、入庫した在庫商品で入庫後各工事に振分けるものであるが、それぞれには、被告光栄機設の出捐により仕入れた商品「K」と日本ホイストより被告光栄機設に預けられた預り在庫「H」があり、「K」だけが原価計算のデータとして使用されるのであり、被告光栄機設主張のように「ジュン」と「フリ」の区別により原価計算のプログラムに移行するか否かが決せられるわけではない。

(3) 原価計算の担当別プログラムのコード番号順の表示について

担当者コード番号の本件コンピューターへのデータ入力に際しての被告光栄機設のミスに基づくものである。

(4) 原価計算の担当別プログラム、日付別プログラム及びユーザー(得意先)別プログラムに関する毎月二一日より翌月二〇日締切りでの合計表示について

いずれも、被告光栄機設が、本件コンピューターに対し、いつからいつまでという合計表示の範囲の指示を与えなかつたためであるにすぎない。

第三  当事者の提出、援用した証拠<省略>

理由

第一甲事件について

一原告がリースを業とする株式会社であり、被告光栄機設がクレーン及びホイスト設備の製造販売を業とする株式会社であり、被告大塚商会が各種事務機器の販売を業とする株式会社であること、原告が被告光栄機設との間で、昭和五五年八月七日、原告をリース貸主、被告光栄機設をリース借主とする本件リース契約を締結したこと、被告安尾が、右同日、原告に対し、本件リース契約に基づいて被告光栄機設が原告に対して負担する一切の債務を連帯保証する旨約したこと、被告光栄機設が昭和五七年六月一日以降リース料の支払をしないことは、当事者間に争いがない。

二そこで、被告光栄機設及び同安尾の抗弁について判断する。

1  債務不履行による解除

被告光栄機設及び同安尾は、本件リース契約のリース物件には本件コンピューターのほか本件プログラムを含むものであり、同プログラムの不完全履行を理由に本件リース契約の解除を主張する。

(1) この点について原告は免責特約があると主張する。

しかし、<証拠>によれば、原告と被告光栄機設との間の本件リース契約には、被告光栄機設が原告に対し、本件コンピューター一式に規格、仕様、性能、機能等に不適合、不完全その他の瑕疵がある旨の通知を検査期限内にすることなく所定の借受証を原告に交付したときは、本件コンピューターは瑕疵なく完全な状態で原告から被告光栄機設に引き渡されたものとみなされ、以後、原告は、右コンピューターのすべての瑕疵について一切その責任を負わない旨の約定のあること、そして、被告光栄機設は、昭和五五年一二月一日、原告に借受証を交付したことを認めることができる。

したがつて、本件コンピューターと本件プログラムの一体性から右免責特約は本件プログラムにも及ぶものと認めることができるから、本件リース物件に本件コンピューターのほか本件プログラムを含むかどうか、本件プログラムに瑕疵があるかどうかについて判断するまでもなく、同特約により、被告光栄機設のなした契約解除は効力を有しないものといわなければならない。

(2) 被告光栄機設及び同安尾は、免責特約について、本件リース契約には原告が被告大塚商会を履行補助者として本件プログラムを完成するという約定が含まれていること、或いは原告と被告大塚商会とが同一体であることといつた特段の事情があるから無効であるとか、例文或いは信義則違反により無効である旨主張する。

(イ) <証拠>を総合すると以下の事実を認めることができ、<反証排斥略>、他に以下の認定を履すに足りる証拠はない。

(a) 被告光栄機設は、日本ホイストの下請で、日本ホイストの機械設備販売、据付工事一切を行なう工事監理会社であるが、従来から、被告大塚商会とはゼロックス機器の購入等で取引があつた。被告光栄機設の代表取締役である被告安尾は、原価計算を能率的に行ない、各工事の工事原価を明らかにすることを目的として、被告大塚商会へコンピューターの導入を申し入れた。被告安尾は、被告大塚商会の担当職員とコンピューターの機種の選択、プログラムの内容等について検討を行なつた結果、本件コンピューターの導入を決定し、昭和五五年六月ころから週一回の割合で被告大塚商会の担当職員が被告光栄機設を訪れ、原価計算の算出方法等について、被告光栄機設の担当職員と打ちあわせを行なつた。

被告光栄機設は、本件コンピューターの導入方法について、リースを選択し、被告大塚商会から原告を紹介された。原告は、ファイナンス・リースを業とする株式会社であつて、リース物件の品質、性能の判定あるいは保守、管理の能力をもたないものである。原告の担当職員は、昭和五五年六月二六日、被告光栄機設を訪れ、本件リース契約の内容を確認するとともに、被告光栄機設の業務内容について、被告安尾から説明を受けた。その際、被告安尾は以前にもリース契約を利用した経験があると述べた。原告は、被告光栄機設の業務内容を審査した後、担当職員が同年七月一八日に再び被告安尾を訪ね、本件リース契約の契約書を交付してその説明を行なつたが、被告安尾が実印を所持していなかつたこともあり、被告光栄機設から原告へ本件リース契約書が郵送された同年八月七日を本件リース契約日とすることを合意すると同時に、右同日既に被告光栄機設が大塚商会に支払つていた本件コンピューターに関する契約手付金を本件リース契約の前払リース料とすることを原告、被告光栄機設及び被告大塚商会の三者で合意した。本件リース契約に基づく月々のリース料額については、被告大塚商会と被告光栄機設との間でその概略が話合われたが、最終的には、原告の担当職員と被告光栄機設との間で決定され、リース料額も変更された。

被告光栄機設は、昭和五五年一〇月二三日、被告大塚商会から本件コンピューターの搬入を受け、それから一か月以上経過した同年一二月一日、原告に対し、借受証を交付するとともに、被告大塚商会との間で昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日を有効期間とする本件コンピューターに関する保守契約を締結した。

しかし、被告光栄機設は、昭和五七年二月、本件プログラムが不備のまま完成されないとして、本件コンピューターの導入中止を決定したが、本件プログラムの内容が不備であること等に関しては、原告に対し、一切連絡をした事実はなく、右導入の中止も当初は、被告大塚商会に連絡しただけであつて、被告大塚商会からの指示で同年三月末にはじめて、原告に対し、本件リース契約の解除を申し入れた。

(b) 本件リース契約において、原告は、本件コンピューターの貸主となるものの、借主である被告光栄機設から本件コンピューターの購入価額に一定の経費、手数料等を加えた合計額をリース期間の月数に応じて分割、算出したリース料の支払を受け、同被告が、一回でも右リース料の支払を遅滞する等の事由が発生したときは、残リース料の即時支払等を請求することができるものとされ、一方同被告は本件コンピューターの滅失等によりその使用が不能となつた場合でも同コンピューターの購入価額と支払済みリース料額を斟酌してリース物件の価値とは無関係に各年度ごとに定められた規定損失金を支払うべきものとされている。

本件リース契約において、本件免責特約のほか、借主たる被告光栄機設が売主から本件機械の引渡を受けた後、一週間以内にこれを検査したうえ、借受証を原告に交付するまではリース料の支払義務を負わないものとして、その間、同被告が本件コンピューターを検収する機会を確保し、また、本件コンピューターについての原告の保守、管理義務を免除するにとどまらず、むしろ借主たる同被告が、その費用負担により部品の取替、補修、損害個所の修理、定期又は不定期の検査その他一切の保守、管理を行なつて、本件コンピューターが常時正常な運転状態又は十分な機能の働く状態に維持する義務を負う旨定められている。

本件リース契約においては、本件コンピューターに瑕疵があり、被告光栄機設がこれを直ちに原告に通知し、かつ借受証にその旨記載した場合又は、隠れた瑕疵により、被告光栄機設が損害を被つた場合には、原告は同被告に対し、売主に対する右瑕疵による損害賠償請求権を譲渡する旨定められている。

さらに、原告と被告大塚商会との間の昭和五五年八月七日の本件コンピューターの売買契約においては、本件免責特約によつて生じる被告光栄機設の不利益の救済を図るため、次のとおり約されている。

(ⅰ) 約定品の品質、性能、規格、仕様、納入条件、その他については、すべて借主の使用目的に合致させることを売主は借主及び買主に保証します。

(ⅱ) 約定品に関する瑕疵担保、期限内保証、保守サービス、その他売主の便益の供与、義務の履行については、売主が借主に対し、直接その責任を負います。

(ⅲ) 約定品に品質・性能の不良、規格、仕様の不一致、その他の瑕疵があり、または売主に納入条件・保証保守義務の違反、その他の約定違背があつたときは、その通知が遅延した場合においても売主は、借主または買主に対し、その選択に従い、契約の全部もしくは一部の解除、補修、代品との引換、または損害賠償の請求に応じます。

(ロ) 以上の事実を総合すると、実質的に金融機能を営むものと認めることのできる本件リース契約において、本件コンピューターの瑕疵に対処する能力のない原告が、本件免責特約を締結したことはそれなりに合理的根拠を有するものということができる。そして、前記認定のとおり、原告が本件コンピューターの性能、本件プログラムの内容の説明、選定納入等の過程に一切関与せず、もつぱら被告大塚商会と被告光栄機設との間でこれを行なつたこと、被告光栄機設が売主である被告大塚商会に対し、直接責任を追及することが可能であり、また、被告光栄機設が被告大塚商会との間で本件コンピューターに関する保守契約を締結している事情をも併わせ考慮すると、他に特段の事情のない本件においては、本件免責特約を無効であるということはできない。

被告光栄機設及び同安尾は、原告が本件免責特約の説明を充分なさなかつたと主張するが、これを認めるに足りる証拠が存在しないのみならず、前記認定のとおり、被告光栄機設は、以前にもリース契約を利用した経験があるというのであるから、本件免責特約を知悉していたと認めるのが相当であり、被告光栄機設及び同安尾の右主張は採用できない。

また、被告光栄機設及び同安尾は、立替払契約においては、商品の瑕疵を理由とするクレジット会社の抗弁権切断条項が信義則に反するとされる場合が存することを理由に、本件免責特約も信義則に反する旨主張するが、前記甲第九第一七号証によれば、本件リース契約においては、リース借主である被告光栄機設は、立替払契約における一般の消費者とは異なつた資本金三〇〇万円の株式会社であることが認められるから、被告光栄機設及び同安尾の右主張は採用できない。

(3) そうすると、本件プログラムの完成の有無等について判断するまでもなく、被告光栄機設及び同安尾の債務不履行に基づく解除の主張は理由がない。

2  錯誤による無効

被告光栄機設及び同安尾は、本件リース契約は錯誤によつて無効である旨主張する。

しかし、仮に被告光栄機設及び同安尾主張のように、被告光栄機設が、原告により昭和五六年七月末日までに本件プログラムが完成されるものと信じて、本件リース契約を締結し、本件プログラムが昭和五七年一月になつても完成されなかつたとしても、右錯誤は、動機の錯誤にとどまるものというべきであり、右事実が本件リース契約の締結にあたつて原告に表示されたこと、あるいは、原告が右事実を知つていたことを認めるに足りる証拠はないから、右動機の錯誤は、本件リース契約を無効とするものではない。

従つて、被告光栄機設及び同安尾の錯誤無効の主張は理由がない。

三そうすると、先に認定したとおり、被告光栄機設が昭和五七年六月一日以降リース料の支払をしないことは当事者間に争いがないから、被告光栄機設は、本件リース契約に基づき、被告安尾は、連帯保証契約に基づき、各自以下のとおりの金員合計五一五万〇〇一五円の内、乙事件の手形金額を控除した四一四万〇九五九円及びこれに対する昭和五八年四月一二日から支払済みまで日歩四銭の割合による約定遅延損害金の支払義務があるといわねばならない。

(1)  昭和五七年六月分のリース料一四万四九〇〇円

(2)  右リース料に対する昭和五七年六月二日から同年七月一日までの日歩四銭の割合による約定遅延損害金一七三九円

(3)  昭和五七年七月分から同六〇年八月分までのリース料合計五五〇万六二〇〇円(但し、昭和六〇年九月分から同年一一月分までのリース料は前払リース料を充当済み)から、昭和五七年七月一日以降各支払期日までの間の年六パーセントの割合による未経過利息五〇万二八二四円を控除した五〇〇万三三七六円。

第二乙事件について

一被告光栄機設が本件各手形を振り出したことは当事者間に争いがなく<証拠>によれば、原告が本件各手形を所持していること、原告は、株式会社北陸銀行に対し、本件各手形を取立委任裏書し、同銀行が右手形の各満期の日に支払場所に呈示したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二被告光栄機設は、本件各手形を本件リース契約のリース料の支払のために振り出したもので、本件リース契約は、原告の債務不履行により解除され、もしくは被告光栄機設の錯誤により、無効であるから、被告光栄機設は、本件各手形の支払義務を負わない旨主張する。

しかし、被告光栄機設が、原告に対し、本件リース契約の債務不履行責任を追及できず、また、被告光栄機設の錯誤による無効の主張が認められないことは、すでに甲事件において判断したとおりであり、その余の点について判断するまでもなく、被告光栄機設の右主張は理由がないというべきである。

三そうすると、被告光栄機設は、原告に対し、手形金合計一五九万三九〇〇円及びこれに対する各支払期日の後の日である昭和五八年四月一二日から支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払義務を負わねばならない。

第三丙事件について

一被告光栄機設は、クレーン及びホイスト設備の製造、販売等を業とする株式会社であり、原告はリースを業とする株式会社であり、又、被告大塚商会は各種事務機器等の販売を業とする株式会社であることについては、当事者間に争いがない。

二原告に対する請求について

(一)  被告光栄機設が原告との間で、昭和五五年八月七日、本件リース契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

(二)  被告光栄機設は、原告の債務不履行を理由に本件リース契約を解除した旨主張するが、先に甲事件で認定したとおり、仮に、被告光栄機設主張のとおり、本件プログラムが未完成であるとしても、被告光栄機設が右責任を原告に追及し、本件リース契約を解除することは許されないから、その余の点について判断するまでもなく、被告光栄機設の原告に対する請求は理由がない。

三被告大塚商会に対する請求について

1  被告光栄機設は、被告大塚商会との間の契約の債務不履行を主張する。

(一) 原告が、昭和五五年八月七日に、被告大塚商会から本件コンピューターを買受けた際、その売買契約において次のとおり約されていたことは先に甲事件において設定したとおりである。

(1) 約定品の品質、性能、仕様、納入条件、その他については、すべて借主の使用目的に合致させることを売主は借主及び買主に保証します。

(2) 約定品に関する瑕疵担保、期限内保証、保守サービス、その他売主の便益の供与、義務の履行については、売主が借主に対し、直接その責任を負います。

(3) 約定品に品質、性能の不良、規格・仕様の不一致、その他の瑕疵があり、または売主に納入条件・保証保守義務の違反、その他の約定違背があつたときは、その通知が遅延した場合においても売主は、借主または買主に対し、その選択に従い、契約の全部もしくは一部の解除、補修、代品との引換、または損害賠償の請求に応じます。

(二) 右約定は、原告と被告大塚商会との間の第三者のためにする契約であるということができるから、第三者である被告光栄機設は受益の意思表示をなすことにより、被告大塚商会に対し、直接右約定に定められた権利を行使できるものというべきである。そして、甲事件において認定したとおり、被告光栄機設は、昭和五五年一二月一日、被告大塚商会との間で、本件コンピューターに関する保守契約を締結したものであるから、おそくとも、右同日、被告大塚商会に対し、右第三者のためにする契約の受益の意思表示をなしたものと認めるのが相当である。

2  そこで、本件プログラムが未完成であるか否かについて判断する。

(一) 書き込み部分の作成について<証拠>により真正に成立したものと認められ、原本の存在及びその余の作成部分については<証拠>によれば、以下の事実を認めることができ、以下の認定に反する証拠はない。

(1) 本件プログラムのうち、ユーザー別在庫表のプログラムの各項目の金額は、原価計算表のユーザー別(工事別)のプログラムに移記されなければならないにもかかわらず、一部移記されていない金額がある。

(2) 本件プログラムのうち、原価計算表の担当別プログラムは、担当者別にまとめて分類されて表示されねばならないのにもかかわらず、別の担当者が混じつて表示されているものがある。

(3) 本件プログラムのうち、原価計算表の担当別プログラムは、毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示がなされなければならないのに右のとおりまとめられていない部分が存在する。

(4) 本件プログラムのうち、原価計算表の日付別プログラムは、ユーザー別、日付別に表示され、毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示がなされなければならないのに、右のとおりまとめられていない部分が存在する。

(5) 本件プログラムのうち、原価計算表のユーザー(得意先)別プログラムもユーザー別、日付別に表示され、毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示がなされなければならないのに、右のとおりまとめられていない部分が存在する。

(二) しかし、他方、<証拠>によれば、以下の事実を認めることができ、<反証排斥略>、他に以下の認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 本件プログラムのうち、ユーザー別在庫表のプログラムの各項目の金額が原価計算表のユーザー(工事)別のプログラムに移記されるためには、出庫の打込みが必要であるのに、移記していない金額は、右打込みがなされていないものである。

(2) 本件プログラムのうち、原価計算表の担当別プログラムの中に別の担当者が混じつて表示されているものは、担当者コードの入力ミスによるものである。

(3) 本件プログラムのうち、原価計算表の担当別プログラム、日付別プログラム及びユーザー(得意先)別プログラムが毎月二一日より翌月二〇日締切りで合計表示されるためには、別個にその旨の指令をコンピューターに与える必要があるのであつて、合計表示されていないのは、右指令が与えられていないためである。

(4) 被告大塚商会は、本件コンピューターを被告光栄機設に搬入後、昭和五七年一月まで週に一回位の割合で被告光栄機設を訪問し、同被告の担当女子職員に入力の仕方や使い方を指導していたが、右女子職員はコンピューターに関する知識を有する者ではなかつた。

(三) 前記(一)の事実を前記(二)の事実に照らして考えると、前記(一)の事実のみから、本件プログラムが未完成である事実又は、被告大塚商会が被告光栄機設に本件コンピューターの適切な指導を与えなかつた事実を推認することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被告大塚商会には、債務不履行は認められないというべきであり、被告光栄機設の被告大塚商会に対する請求も理由がないというべきである。

第四結論

以上の理由により、甲事件についての原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、乙事件についての原告の請求は正当であつて、主文第二項掲記の手形判決は相当であるから、これを認可し、丙事件についての被告光栄機設の請求はいずれも理由がないので棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、四五八条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(福永政彦 森 宏司 神山隆一)

手形目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例